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 論文の紹介

 野池達也(2008) バイオマス利活用による地球温暖化防止 

                 用水と排水 50巻4号: 308-317.

 本論文は、バイオマス(動植物に由来する有機物で、エネルギー源や生分解性プラスチック等の工業原料として利用できるもの。但し、石油、石炭、天然ガスとそれらの製品を除く)のエネルギーとしての利活用に焦点を当てて書かれた総説である。地球温暖化防止のための京都議定書では、国際的約束履行期間(2008年から2012年)に各国のCO2削減目標を達成することが求められている。この目標を達成するために、2002年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、2006年には更なる展開を図るために改正された。

 本論文では、日本におけるバイオマスの年間発生量が紹介されており、多い順に、家畜排泄物約8,900万トン、下水汚泥(濃縮汚泥)7,500万トン、し尿汚泥3,200万トン、食品廃棄物2,200万トン、廃棄紙1,400万トン、パルプ黒液(乾燥重量:リグニンを多く含む)などとなっている(「総合戦略」による)。
 
 著者は、これまで日本ではバイオマスがあまり利活用されてこなかったが、これは「@バイオマスが、広く、薄く存在し、水分含有量が多く、収集が困難である、A効率の高い変換技術の開発が不十分である、B事業の採算性が低いという理由からであり、多くが焼却か埋立処分されている」と述べている。また、バイオマスのエネルギー変換技術については、物理的、熱化学的、生物化学的な様々な変換技術を一覧表にし、それらの特徴を概要としてまとめるとともに、それぞれの技術の現状について触れている。

 輸送用のガソリンに混ぜて使われるバイオエタノールについては、ブラジルや米国で生産が盛んであり、一方、日本では2007年度の生産量は僅かに約30klであるが、2010年には5万kl、2020年には100万klと大幅な拡大が目指されている。2007年度からは、原料(テンサイ、小麦、米)の調達から利用までの実用的規模のモデル事業が全国3カ所で開始されているというのが現段階である。稲わらや建築廃材などのセルロース系原料からエタノールを製造することは技術的には可能であるが、実用的には低コスト化に向けた技術開発が更に必要とされている。

 輸送用のバイオディーゼル燃料(BDF)は、欧州連合(EU)では2005年に菜種等から年間約362万kl生産されているが、日本では回収した食用廃油からBDFを製造する小規模な取り組みが行われており、年間4,000〜5,000kl生産されている状況である。

 木質バイオマス発電について、日本で稼働中あるいは竣工予定の直接燃焼方式木質バイオマス発電設備は、全国で8カ所(2004年)あり、「木屑ボイラー+蒸気タービン」、「木質チップボイラー+蒸気タービン」、「循環流動層ボイラー(無煙炭との混焼)」、「流動床ボイラー+蒸気タービン」という方式で行われている。木質バイオマス発電では、持続的に木質バイオマスが供給されるシステムの構築、および木材生産・加工の流れの中に残廃材を利用したエネルギー生産プロセスを組み込んでエネルギーコストを下げることが重要とされている。

 バイオガスエネルギーとしてメタン発酵が取り上げられている。メタン発酵では、原料として下水汚泥生ごみ家畜排泄物などが大量に、しかも年間を通して安定的に供給されるという利点があり、「総合戦略」でも、バイオマスからエネルギーを生産するための基幹的技術として期待されている。下水汚泥は代表的な廃棄物系バイオマスであるが、2004年度末に日本の下水処理場数は約2,000箇所あり、このうち嫌気性消化法(メタン発酵)による処理法を取り入れている施設は300箇所弱であるが、2006年度末までにメタン発酵によるガス発電を実施している処理場は27箇所となっているという。下水汚泥、生ごみ、家畜排泄物など廃棄物系バイオマスをメタン発酵しエネルギー利用することにより、年間に原油換算で395万kl分のエネルギーが得られ、これは日本の年間原油輸入量の約1.2%に相当すると述べられている。

 「総合戦略」により、バイオマスの利活用と農村の活性化を目指して、「バイオマスタウン構想」(注)が推進されている。2007年12月現在で107市町村からバイオマスタウン構想が公表されているが、その中で、メタン発酵をエネルギー回収の基幹施設とする構想が22箇所で取り上げられているという。

 メタン発酵の優れた面として、@メタンガスは有機物の嫌気性消化によって生成され、生成過程でCO2発生の少ない石油代替えエネルギーである、Aエタノール発酵過程へのエネルギー供給やエタノール発酵残渣処理のために、メタン発酵技術を組み合わせて利用できる、Bメタン発酵後の消化液から作られるコンポスト中の不活性有機性炭素は分解されにくいので適切な条件下で土中に長期間埋蔵することが可能であると述べられている。

 筆者は、本論文を読んでみて、地球温暖化を巡る現在の情勢の中で、バイオエタノール、バイオディーゼル燃料、木質バイオマス発電、メタン発酵という、国内外で推進されている主要なバイオマス利活用技術の現状が分かりやすくまとめられていると思う。また、日本のバイオマス利活用の実用化がバイオマス先進国と較べてかなり遅れていることも分かった。しかし、日本におけるメタン発酵技術など既に実用段階にあるものもあるので、実用化と普及を加速させるためには、国や地方自治体による補助の拡大、生み出した電力の電力会社による買取量の拡大買取価格の引上げなど、欧州諸国の例にならって、早急に新たな政策的な仕組み作りを進める必要があると考える。更に、今後も、設備のメンテナンスが容易で、運転経費が少なく、安全で安定的に運転できるバイオマスエネルギー生産設備の技術開発が一層進むことが望まれる。そして、バイオマスエネルギーの生産設備・システムが早急に実用化・普及していくことによって、急を要する京都議定書履行と石油代替えエネルギーの確保が進むことを期待したい。

(注)バイオマスタウンとは、バイオマスの発生から利用までのプロセスが効率的に結ばれたバイオマスの総合的利活用システム(廃棄物系バイオマスが炭素量換算で90%以上、未利用バイオマスが炭素量換算で40%以上利活用されるシステム)が構築され、安定的かつ適正にバイオマスの利活用が行われているか、あるいは今後、利活用システムを構築するための構想が立案・公表されている市町村をいう。
 (MM 2008/7/27記)

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